起業後、35日目。
今日は、床屋と競争戦略について。
最近、髪を切りに行く余裕がなかった。
本日たまたま、客が一人もいない床屋を発見。普段は美容室だが、チャンス!と思い、
フラっと立ち寄ってみた。
待ち構えていたのは、60歳にもなろうかという女性の店員。存命であれば、私の母と同い年くらいのオバさん。久々の客に、少々驚いている様子。
実は、僕の実家、静岡で床屋を営んでいた。父と母だけの、いわゆる家族経営だった。
中学を卒業する頃、父は僕に「床屋になれ。儲かるぞ」と語ったことがある。
夢と希望溢れる15才の子に対して、「床屋になれ。儲かるぞ」は、響かなかった。
しかし、父としては実感であり、子を思っての提案だったと思う。
現に、父と母は、床屋一本で4人の子供を育て、内2人(兄と私)は、東京の大学(私は私立。兄は大学院まで)に出してもらい、学費と生活費を工面してくれた。
AERAやプレジデントファミリーを読むに、4人の子供を育て、大学まで出すのは、金銭的に容易ではないことが分かる。サラリーマンでは、なかなか覚束ない金額だ。
「床屋になれ。儲かるぞ」は、本当だった。
しかし、兄弟4人もいるのに、姉1人を除いては、誰も床屋の免許をとらなかった。
姉も嫁ぎ、後継者も途絶えた。そして、今年春頃、床屋を畳んだ。
というわけで、
60歳近い女性店員と対面した瞬間に、実家の父と母がフラッシュバックした。
聞けば、僕と同い年くらいの娘が二人いるとのこと。やはり、床屋を継ぐ気はなく、2人とも他へ嫁いだらしい。もう子供も巣立ったし、あと数年したら、店を畳むとのこと。
まんま、矢野家である。
「今日は(髪型)どうしますか?」と聞かれたので、
「短く、スッキリしてください」と伝えた。
加えて、実家が床屋の私は、床屋を知り尽くしていたので、
「襟足はキッチリしすぎないでくださいね」と付け加えた。
実家の父親がそうだったのだが、彼ら、襟足はビシっと揃えないと、気がすまないのだ。
「ラフ」とか「遊び」という概念が存在しない。キッチリ揃えないと、「一流の仕事をした」という気がしないんだと。
散髪中、「実は、実家が床屋なんですよ」という話をしたら、盛り上がった。
奥から、ご主人も出てきた。聞けばご主人、将棋を嗜むという。店内に駒と盤があった。
「最近は、指せる若者も少なくてね」と、大いに盛り上がった。床屋は、こういうコミュニケーションが楽しい。
思い起こせば、実家の床屋も色んなお客さんが来て、僕自身、色んなオジさんに遊んでもらった記憶がある。分からないながらも、大人の話も色々聞き、楽しかった。
あのワイワイガヤガヤした空間は、実に懐かしく、居心地が良かった。
実際、さほど髪が伸びてないが頻繁に来るお客もいた。禿げ上がって、切るところがほとんどないお客もいた。今思えば、みんな、コミュニケーションを取りにきていたんだと思う。髪を切ること自体は、大した目的じゃないのだ。特に田舎はそうだ。話し相手が欲しいのだ。
そんな原風景を懐かしんでいたところ、「最近は、床屋も経営が厳しい」という話になった。原因は、新規参入。競合は、美容室と激安床屋。若い男子は、美容室へ。節約を考える中年は、激安床屋へ。あっと言う間に、顧客をとられたとのこと。
床屋のオジさんもオバさんも肩を落としている。
床屋はもはや、儲からないのだ。
かわいそうだ。
そうこうしているうちに、顔剃りまで終わった。
床屋のサッパリ感は格別だ。
「ありがとうございましたー」と店を出る。家に着いた後、
再度、髪型をチェックした。
悪くない。
ん
ん?
んん!?
襟足がビシっと揃えられてる!!
ガーン・・・
まだ29才なのに、コレは辛い。。
こんなところまで、まんま、矢野家だ。。
襟足をなでながら、
「次も行こう」
と心に決めた。
床屋のオヤジと将棋を指しながら、床屋をめぐる顧客ニーズと競争戦略について語るのだ。
なんとかしてあげたい。
続きは、髪が伸びた頃。